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医学的知識

ALDH2不活性型の存在理由に対する考察

投稿日:2018年11月21日 更新日:

今日は少し難しい話をしていきます。

ALDH2というタンパクについての考察です。

(この記事は私が書いたレポートの一部です。新しく記事を書く時間がないので、書いた文章をほぼそのままに引用しています。)

(私にしか書けない内容ですし、公開時期も問題ないなずなので、公開しておきます。)

 

ALDH2の存在理由についての考察

 

アルコールを飲むと、心拍数が上がり、体温が上がり、顔が赤くなることがある。この現象を“アルコール紅潮反応”と呼び、アジア人の約半数に見られることが分かっている。

 

そして今回の実験で調べたALHD2は、アセトアルデヒドを酢酸塩に変換するので、その活性型、不活性型はその人のアルコールに対する抵抗性を示すとされている。ALDH2の不活性型遺伝子は正確にはALDH22と表記され、アルコール紅潮反応はALDH22遺伝子を持つ人に特定に見られる現象である。

 

現在の臨床では、ジスルフィラムと呼ばれるALDH22と全く同じ働きのある薬が、アルコール依存症の治療のために使われているが、これはALDH22遺伝子を持つ人はアルコール依存症にならないことを利用している。

 

このALDH22の遺伝子頻度にはヒト集団間で大きくばらつきがあることが示されており、アジア集団とヨーロッパ集団を比較すると、明らかにアジア人集団の方がALDH22遺伝子を多く持っている。

 

ここで考察したいのは、なぜこのようなヒト集団間での遺伝子頻度にばらつきがあるのか、ということだ。(1)

 

遺伝子の変異には必ず何かしらの理由がある。例えば鎌状赤血球をもたらす遺伝子をホモで持っている人は成人期までに死亡するが、変異をヘテロで持っている人はマラリアにかかりにくい、かつ通常の日常生活を送ることができる、などがよい例だ。

 

遺伝子の変異は生物の進化の結果であり、進化は環境によって妥協的に引き起こされる、というのが現在の進化論に関する一般的な考えである。環境によって生物は淘汰を受け、遺伝子は変異するが、その変異によってもたらされる結果は、必ずしも個人によい結果をもたらすわけではない、ということだ。

 

先ほどの鎌状赤血球の例で言えば、一部の個体に鎌状赤血球という致死的な病気を引き起こす一方で、集団全体ではマラリアに対する耐性を得ている。

 

また他の例を挙げてみると、白人に多く見られる遺伝性のヘモクロマトーシスを引き起こす遺伝子は、ホモ接合で持つ個体には中年期以降に重篤な臓器不全を引き起こす一方で、ヘテロ接合で持つ個体にはペスト菌への耐性をもたらすことが明らかになっている。遺伝性のヘモクロマトーシスがペストの流行を経験した白人に多いのは、ペストの流行を生き延びるべく人が進化をした一方で、その代償としてヘモクロマトーシスという致死的な疾患をもたらした、ということだ。

 

ここで言いたいのは、どんな遺伝子にも、特に劣性遺伝子には、その変異をもたらした環境と、その変異によってもたらされる結果の因果関係が存在する、ということだ。

 

今回のALDH2を考えてみると、ALDH22の利点はアルコール依存症にならない、ということだ。(アルコール依存症は個人の生存にとっても、集団全体の生存にとっても問題になることは明らかである。)そしてALDH22は、ファンコニ貧血などの一部の疾患と関連があることが報告されているので、何らかの異常を引き起こすリスクにもなっている。(2)

 

また、なぜALDH2*2の頻度がヒト集団間でばらつきがあるのか、ということについては、一つの仮説がある。それは、環境によって、この場合は「飲料水」によって遺伝子変異が引き起こされた、というものだ。

 

飲料水が生死を分けることは今も昔も変わらない。そして、かつては上水と下水の区別が難しかったので、ヒトは今よりも「汚染されていない水」をどうやって飲むのか、という問題に直面していた。

 

そして、その問題に対して、アジア人とヨーロッパ人は異なる解決策を用意した。アジア人は「水を煮沸させる」という方法を取ったのに対し、ヨーロッパ人は「水を発酵させる」という手段を取ったのだ。発酵によってアルコールを発生させ、いわゆるアルコール消毒によってきれいな飲料水を確保したのである。

 

つまり、ALDH22の遺伝子頻度のばらつきは、飲料水を飲むためにアルコールを常飲するかどうか、という環境によって決まっているのだ。アルコールを常飲していたヒト集団はALDH22を持つことはなかった。しかし、アルコールを常飲していないヒト集団はアルコールに対する耐性を持つ必要がなかったので、ALDH2*2を持ち、「アルコール依存症」という脅威に対応したのだと考える。

 

こうやって考えてみると、ALDH2*2の方が遺伝子として正常型であるのではないか、という疑問も出てくる。

 

と、ここまでALDH2*2について述べてきたが、とにかく遺伝子変異には何らかの理由が存在すると考えることが妥当だと思う。遺伝子変異が存在する以上、何らかの存在理由があるはずだ。そして、その存在理由を突き詰めていくことが、ヒトの遺伝子研究の、そして、ヒトの進化をひも解いていく過程の面白さなのだと思う。

 

今回の実験で遺伝子についての面白さを考察できたので、実験の手伝いをしてくださった方には感謝しかありません。ありがとうございました。

 

参考文献

 

(1)Sharon M, et, al, Survival of the Sickest: The Surprising Connections Between Disease and Longevity (https://amzn.to/2TezP9z)

 

(2)「アルデヒド分解酵素遺伝子」ALDH2が解き明かす難病の謎

http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2013/130913_1.htm

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