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医学的知識 モチベーション管理

エピジェネティクスとは?例を挙げて分かりやすく解説~「今の行動が次の世代に影響を与える」~

投稿日:2018年9月3日 更新日:

今回は生物学を勉強するときに学ぶことになる「エピジェネティクス」という言葉を解説していきます。

エピジェネティクスは日本語で言えば「後成遺伝学」とも呼ばれ、「エピ」とはギリシャ語で「何かの上に」「何かを超えて」を意味しています。

このエピジェネティクスを理解することはなかなか難しいのですが、一言で言えば「親の生活様式などの環境的な要因が遺伝子に影響を与え、その影響は次の世代にまで引き継がれる」ということです。

私たちの遺伝子配列は、その人がどんな体験をしたかによって生きている間中、ずっと変化し続けます。そして、たとえ遺伝子配列が変化しなかったとしても、遺伝子がもたらす作用も変化し続けるのです。

エピジェネティクスの概念が発見される前は、遺伝子は何世代もかけてゆっくりと、しかし着実に変化を起こすという考えが主流でしたが、現在では環境が遺伝子配列や遺伝子がもたらす作用に急激な変化を与えるという考えが主流になっています。

ここからはエピジェネティクスが発見される歴史などを踏まえて、エピジェネティクスが真に意味することを解説していきます。

 

エピジェネティクスの発見

エピジェネティクスが発見された舞台は、ノルウェー北部のノルボッテン地区と呼ばれる場所です。過疎地であり、都市部との交通が困難であったために、19世紀ごろまでは凶作のたびに深刻な飢餓に見舞われた地域です。協会区の記録によれば、1800年、1812年、1821年、1836年、1856年には深刻な凶作による飢餓が生じていたそうです。

しかしそれとは対照的に、このノルボッテン地区は豊作も多く体験しています。1801年、1823年、1828年、1844年、1863年には豊作が起こり、過食による健康被害が増加した地域でもあります。

予防医学の専門家であるラーズ・オロブ・バイグレンという人物が、このノルボッテン地区の凶作と豊作の繰り返しが、住民の健康状態にどのような影響を与えたのかを調査しました。

ある集落で1905年に生まれた住民99人をランダムに選んで調査したところ、「幼少期にある冬は飢餓、次の冬は飽食という経験をした子供や、さらにその子供が総じて平均より短命になり、最大で33年も平均よりも早死にする」ということが明らかになりました。

つまり、子供のころに飢餓の年と、飽食の年を体験した人の体内で何らかの生物学的な変化が生じて、その変化は次の世代、さらにその次の世代へと引き継がれる、ということです。

これがエピジェネティクスの発見の契機となった調査です。この調査に触発された多くの研究者たちが、この「親の体験が子供の世代にまで影響を与える」という不思議な現象をさらに調査していくことになります。

 

エピジェネティクス研究の始まり

親の体験が子供の世代まで影響を与えるという一つの科学的事実は、多くの研究者をその理由の探求に向かわせます。その中でも特筆すべき研究は、イギリスのブリストル大学の疫病学者であるジーン・ゴールディングが主体となって行った、「エイボン親子研究」というものです。

この研究は1991年と1992年に、約1万4000人の妊婦を対象にして、その後の親子を追跡調査したものです。追跡調査の結果を詳しく分析してみると、11歳以前に喫煙を開始した父親の子供は、性別に関係なく肥満度を表すBMIの値が9歳の時点で極めて高かったことが明らかになりました。そして幼少期の時点でBMIの値がすでに高かった子供は、肥満や糖尿病を発症する確率が高いことも明らかになりました。

つまり、親の喫煙や食生活などの生活習慣は、その次の世代まで影響を及ぼすことがまた明らかになったのです。科学者たちは、親が過ごした環境的な要素が遺伝子に何らかの刻印を残すのではないか、と考え始めました。これがエピジェネティクスという概念の始まりです。

 

エピジェネティクスはどこまで作用するのか?

ではエピジェネティクスはどの範囲で、どれくらいの間、遺伝子に影響を与えるのでしょうか。

スイス連邦工科大学のレナート・パロがミバエというハエの一種の卵を取り巻く液体の温度を、25度から37度に少しの間上昇させただけで、遺伝的には白い目をもって生まれてくるはずのハエが、赤い目をもって生まれてくるようになることを実験によって明らかにしました。

さらに驚くべきことに、この赤い目のハエを通常の白い目のハエと交配させたところ、その後6世代にわたって、ずっと赤い目のハエが生まれ続けることが明らかになったのです。つまり、エピジェネティクスは約6世代後の世代まで影響をもたらす可能性が示唆されたのです。

赤い目のハエも、白い目のハエも遺伝子の配列に変化はなかったのですが、卵の状態の温度を少し変えるだけで、遺伝子配列がもたらす作用が変化し、6世代後まで目の色の変化をもたらしたのです。

ではハエではなくマウスの場合はどうでしょうか?

ペンシルベニア大学の神経学者、トレイシー・ベイルが行った研究によると、妊娠しているマウスにジャンクフードのような高脂肪の餌を与えたところ、そのマウスから生まれた子供は誕生時からすでに体重・体長ともに平均を上回り、インスリンに対する抵抗性が低くて糖尿病と肥満へのリスクが高いことが分かりました。

そしてこの子供が成長したときに、通常の餌を与えたのにも関わらず、妊娠して子供を産むとやはり体重と体長が平均を上回り、インスリンに対する抵抗性が低い個体が生まれたそうです。さらにもう2世代後まで、通常の餌を与えたのにも関わらず、体重が重くて食事を多く食べるマウスが誕生したそうです。

マウスの場合もエピジェネティクスは確かに働いているようで、人の場合も働いていると考えて良さそうです。特に食生活は大きな影響を及ぼすのでしょう。

さらに食生活だけでなく、記憶のような心理学的な面でも、エピジェネティクスは働くようです。

タフツ大学の生物科学者であるラリー・フェイグが記憶障害を持つように遺伝子的に誘導されたマウスに、運動用具などのマウスの関心を惹くものを多く備えた環境で生活させたところ、そのマウスの記憶力が大きく向上しただけでなく、神経細胞の情報伝達効率が高くなるような現象が見られました。そしてその現象は、このマウスの子孫がごく普通の環境で育てられたのにも関わらず、維持されたことが明らかになっています。

つまり、脳を鍛えることによって起きた神経細胞同士の結合の変化が、子孫へも引き継がれることが示唆されたのです。簡潔に言えば、賢い親からは賢い子供が生まれ、逆もまたあり得るということです。

これらのエピジェネティクスによる遺伝子配列や遺伝子がの与える影響の変化は、メチル化というものによって起こされるのですが、専門的な話になってしまうので割愛します。

 

幼少期の環境で性格が変わる

近年の研究では、このエピジェネティクスは楽観性や悲観性などの性格にも影響を与えるということが示唆されています。

愛情深いラットの母親は、1日に何時間もの間赤ん坊の体をなめたり抱いたりして過ごし、赤ん坊が巣から転げ落ちてしまった場合はすぐに拾いにいくことをします。しかし、愛情が薄いラットの母親は、生まれた子を世話するのに多くの時間を使うことなく、子が巣から小峠落ちたとしてもすぐさま拾いに行くことはしません。

そして、ラットの子供にとって愛情深い母親を持つか、それとも愛情の薄い母親を持つかは重要な問題になってきます。愛情の薄い母親から生まれた子供のラットは、愛情が深い母親から生まれた子供のラットと比較すると、ストレスを明らかに多く感じており、「グルココルチコイド受容体」というストレスに対処するための重要な物質の分泌量が遺伝子レベルで少ないことが分かりました。

つまり、母親の愛情という古典的な環境要因は、子供が強いストレス耐性を持つかどうかに大きく関わっているのです。

また、人の場合でも、出産前に抑うつを体験していた母親から生まれた赤ん坊を生後3か月に調査したところ、遺伝子レベルでの変化によって、抑うつを体験しなかった母親から生まれた赤ん坊よりも明らかに多くのストレスを感じて、ストレス耐性が低下していることが明らかになっています。

 

私たちは数世代前の親の幼少期の体験から遺伝子レベルで強い影響を受けており、そして私たちの幼少期の体験は、体内で遺伝子レベルの変化をもたらし、その変化は数世代後にまで引き継がれる。

 

これがエピジェネティクスです。

 

幼少期の体験が重要になってくる理由もエピジェネティクスを使えば説明できるのです。

だからこそ子供には健康的な食生活を与え、愛情深く接することが最も重要なのですね。

 

「私たちの行動は何らかの形で遺伝子に刻み込まれ、次の世代に受け継がれる」

この言葉でエピジェネティクスの説明を終わりたいと思います。

 

参考文献


脳科学は人格を変えられるか? (文春文庫)

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